苦しい時にすがれる存在~石像寺と矢田寺のお地蔵さま~
なかなか厳しい情勢が続く昨今。
環境や心がつらい状況にあるという方も、いらっしゃるかと存じます。
かつての人々は苦しみから逃れたいと願うとき、柔らかな笑みを浮かべるお地蔵さまを頼りにしてきました。
(広告)苦しみを抜き取る「石像寺」の釘抜地蔵
千本通に面する「石像寺(しゃくぞうじ)」も、そうやって信仰を集めてきた寺院のひとつ。
こちらが正式名称ですが、ご本尊の地蔵菩薩にちなんだ「釘抜(くぎぬき)地蔵」の通称で広く知られています。まちなかでは、釘抜さんと呼ぶこともあります。
石像寺は弘法大師によって創建され、先述のご本尊も彼が手ずから石を刻んだのだそう。
この地蔵菩薩には「苦しみを抜き取る」というご利益があるとされており、以下の伝説が伝わっています。
──かつてどんな治療を施しても両手の痛みが抜けなかったある商人が、石像寺のお地蔵さまに願掛けをした。
満願の際、夢に地蔵菩薩が現れ「お前の苦しみの原因は、前世で人を呪い、人形の手に釘を打ち込んだからだ」と仰って、人形から抜いた釘を見せた。
商人が夢から覚めたとき手の痛みは無くなっており、石像寺を参拝するとお地蔵さまの前に2本の釘が置かれていた──
なんとも不思議なお話ですが、そのご利益は確かなものなのでしょう。
自身の苦しみを抜き取ってもらおうと、石像寺には今も参拝者が絶えないようです。
その証拠に、境内には釘抜きを貼り付けた多数の絵馬が。
これらは石像寺に参拝し、実際に苦しみから逃れられた人々が収めたもので、お堂にずらりと並ぶ光景は大変インパクトがあります。
石像寺において、釘はぐさりと刺さる苦しみの象徴。
それを抜いてくれる釘抜きは、まさしくお地蔵さまの救済そのものを表しているのでしょうね。
(広告)恋の苦しみも代わってくれる「矢田寺」の代受苦地蔵
もうひとつ、苦しみから助けてくれるご利益で有名な、京都の寺院「矢田寺」をご紹介します。
矢田寺が鎮座するのは、人通りの多い寺町通の一角。
近くを訪れた際によく見かける、という方も多いのではないでしょうか。
こちらは地蔵菩薩がご本尊の寺院としては、日本で初めてつくられたという歴史ある社寺。
お寺の入り口には、通称である「矢田地蔵尊」の文字が大きく掲げられています。
矢田寺のご本尊は、人々の苦しみを代わってくださる「代受苦(だいじゅく)地蔵」と呼ばれるお地蔵さまなのだそう。
祀られているお地蔵さまの前には燃え盛る炎を表した装飾が施され、まるで参拝者の苦しみを代わりに受けていらっしゃる姿のような、特徴的な出で立ちです。
境内を見回すと目に入るのが、フェルトでできたかわいらしいお地蔵さまの数々。
これは矢田寺で授与されている「ぬいぐるみ地蔵」というお守りで、ご住職夫妻の手作りなのだとか。
ご利益は無病息災や安産祈願の他、「恋の苦しみを代わってくれる」と良縁成就も期待されています。
そのかわいい見た目とご利益から、近年は若い女性からの人気も集めているとのこと。
願い事を記して境内に納めるだけでなく、お守りとして持ち帰ることもできますので、求める際はどちらを選ぶか考えておくのがおすすめです。
日本のお地蔵さまは人々のセーフティーネット
人間は命が続く限り、悩みや苦しみがつきない種族。
つらい気持ちに苛まれたとき、最後のセーフティーネットとして機能するのが「すがれる存在がある」ということです。
日本各地のお地蔵さまは長い年月、そうやって多くの人々を救ってきたのかもしれません。
苦しみを抜き取ってくれる石像寺のお地蔵さまと、苦しみを代わってくれる矢田寺のお地蔵さま。
もしも今、あなたに苦しみがあるのなら、手を差し伸べてくれる存在がいるということを、どうか忘れないでください。
石像寺
〒602-8305 京都府京都市上京区千本通上立売上ル花車町503
矢田寺
〒604-8081 京都府京都市中京区三条上る天性寺前町523