京の老舗と東京の老舗~老舗創業番付をみる~

京都の老舗創業番付

『京都の老舗創業番付』を見る

京都の老舗を訪ねると、たまに見かけるこの番付。

時代マップ編集部が作成した『京都の老舗創業番付』です。
安土桃山~江戸時代初期に創業したお店が大半を占めています。室町時代のお店が殆ど無いのは、応仁の乱から戦国時代にかけての混乱によるものなのでしょう。

この番付でなにより目を引くのが、横綱である田中伊雅仏具店と一和です。
田中伊雅仏具店は日本中のお寺に高級な仏具を提供し続けています。一和は紫野今宮神社にあるあぶり餅屋だと言えば誰もがわかるでしょう。
この2社は日本に9社しかない創業千年以上の歴史を持つことで知られています。

一和のあぶり餅

千年の都京都と言われることもあり、番付を見るだけでも料理・和菓子・工芸などお店の種類は多岐にわたります。
何よりこの番付の恐ろしいところは、緑寿庵清水や一保堂など、名だたる老舗店でも番付に載っていないこと。
京都には老舗が沢山あるのです。

京都の老舗の数は、500件以上と言われています。正確な数は把握されていません。
というのも、商工会議所や京都府による調査があったようなのですが、その調査がお店の自己申告制であったり、登録されるには費用がかかったりしたため、データに含まれていないお店があるかもしれないからです。

京のなが~いお付き合い

京都の老舗の特徴は、「時が経っても変わらず高い品質を保てている」と長い歴史のなかでお客に認められてきた点にあるといえます。
店主が代替わりした際「先代の仕事をいかに踏襲できているか」をチェックする無言の厳しい審査がお客によって行われます。

そのお客も代々そのお店を贔屓にしているため、審査の基準はとても厳しいものです。お店とお客はこの世代を超えた厳しい試験を何度も行うことで、お店をその道の最高峰に育てていきました。

「100年程度では老舗とは言われない」と冗談交じりに言われる京都。
では、どうすれば老舗と呼ばれるのでしょうか。作家の駒敏郎によれば、「明治維新を経験し乗り越えたか」が1つの基準になるようです。

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明治維新は京都にとってたいへん厳しい時代でした。蛤御門の変は「どんどん焼け」と呼ばれる大火事を起こし、東京遷都は海もなく交通の便が悪い京都という土地の価値を大きく損ねるものでした。実際明治期に多くのお店が京都から東京に移転しています。閉業に追い込まれたお店も多くありました。この苦難の明治維新を乗り越えられる商売ができていたかが、京都の老舗としての1つの基準とされてきたのでしょう。

このように、長い間お客の厳しい要求に応え続ける洗練された技術と明治維新のような経済的危機を乗り越える商業的強かさを兼ね揃えたお店が京の老舗として愛されているのでした。

昭和創業でも老舗!広いジャンルを持つ東京の老舗文化

一方で東京では、創業後100年ほど経っていれば、いや経っていなくても長く愛されていれば老舗を名乗れます。
とんかつ店・パン屋・洋食店・天丼屋など多岐にわたるお店が現在も老舗として広く愛されるのは、この懐の深い風土によるものでしょう。

東日本の老舗を語るうえで大切なのが「秘伝のタレ」の文化です。うなぎや天ぷらのたれ・そばつゆ・とんかつソースなど、継ぎ足しを重ねてきた醤油ベースの甘辛いタレをどのお店も大切にしています。素材の味を引き出すよう薄味で料理する京都とは大きな違いです。

東京の老舗店のたれ

関東大震災と東京大空襲を経験している東京。
ほとんどの東京の老舗が1945年までに店舗や設備、そして秘伝のタレを失い、ゼロから再起しています。

それでも戦前から続く老舗が現在も多く存在するのは、東京の人々が諦めずに前に進んだからなのでしょう。
このすべてを失った経験は、東京の老舗に伝統への不必要な執着を捨てさせたのでした。

例えば江戸時代からの歴史を持つ老舗店が、これまで構えてきた店舗から新築のビルにお店を移転するという話は現在でも珍しくありません。
人気の出汁巻きの販売だけをとても小さなお店で続けているかつての有名料亭も存在します。

守り続けるべきことは何で、変えても問題ないことは何なのかを問い続ける柔軟さは、変化の激しい東京で生き残る力を多くのお店に与えたのでした。

京都の老舗と東京の老舗

このように、京都では最高峰の伝統技術にこだわる厳しい町人文化が、東京では急激な変化に対応できる柔軟な経営がお店の伝統を守り、老舗を老舗たらしめたのでした。

この記事を読んでもし老舗の歴史に触れあいたいと思って頂けたのなら、まずはお店に行って、商品に触れ(口にして)、お店の人のお話を聞いてみることをお勧めします。

お店との触れ合いは、「歴史に触れる」という貴重な体験へとあなたを誘ってくれるでしょう。

この記事を書いた人
石田卓哉

<参考文献>
駒 敏郎『東京の老舗 京都の老舗』昭和57年、角川文庫

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