十三代目團十郎襲名、1994年NHK大河ドラマ「花の乱」が面白い
十三代目團十郎の襲名で歌舞伎の大名跡が復活した
2022年、市川海老蔵が十三代目市川團十郎を正式に襲名しました。2013年に十二代目團十郎が逝去して9年ぶり、歌舞伎の大名跡「團十郎」の復活となります。
この十三代目團十郎のテレビドラマ初出演は、1994年NHK大河ドラマ「花の乱」、ちょうど平安京ができて1200年にあたる記念ドラマの時でした。
NHK大河ドラマ「花の乱」の足利義政役は團十郎親子の共演だった
大河ドラマ「花の乱」は、平安建都1200年を記念して室町中期、応仁の乱前後の京都を舞台としたドラマです。主人公の日野富子を三田佳子が演じ、その夫・足利義政を先代の十二代目團十郎がつとめました。また、若き日の義政を当時の市川新之助、十三代目團十郎が演じ、新之助から十二代目に義政役が入れ代わる親子共演が大きな見ものでした。
ちなみに富子の少女時代をこれが女優デビュー作となる松たか子が演じています。新之助と松たか子、歌舞伎界の若きふたりがカップルを演じる趣向もまた華やか。
応仁の乱の東軍の将、細川勝元役に狂言の野村萬斎も出ています。
「今のところ、父からのアドバイスは、歌舞伎の舞台とは違うから、せりふの言い方を気をつけなさい、とだけ。
歌舞伎は、いってみれば大きな声が基本、テレビは初めてなので、大きさの程度がまだわからない。目標は父。だから父がいると緊張します」とドラマガイドで新之助が語っています。
当初祖父・十一代目に憧れていた新之助は「父には祖父やぼくが持ってない何かがある」と気づいて以来、父・十二代目を尊敬するようになったとか(関容子『海老蔵そして團十郎』(新潮文庫))。
その十二代目團十郎は、同じドラマガイドの中でこんなふうに言っています。
「ほとんど歌舞伎の世界に身を置いていますが、たまにテレビをやると、肉体的には忙しいが、精神的には変われます。環境が違いますから、気持は遊べますね」
さすがベテランの余裕。しかし裏を返せば歌舞伎界での日ごろの重責を語ったせりふともとれ、團十郎という名跡の日々の大変さを明かしているとも言えます。
平安建都1200年ドラマ「花の乱」が見せる團十郎の存在
脚本の市川森一によれば、この「花の乱」は「壮大なホームドラマ」を意図したものなのだそうです。義政と富子、夫婦の機微を軸に権謀術数の世界がえがかれてゆきます。
「義政自身は一貫しているが、複雑怪奇な人間関係、応仁の乱の中で、目まぐるしく環境が変わる。そして自分の限界に気づいていく。そのつらさを義政に感じます。私と義政の苦悩がオーバーラップすればうれしいですね(笑)」(十二代目團十郎談 ドラマガイド)
思うに任せぬ将軍職に就き政治に関心を失っていった義政を、江戸歌舞伎の名門團十郎に演じさせたのは、役の根底に重圧を背負った者としての苦闘を必要としたからでしょうか。また、十二代目の品格とどことなく憎めない愛嬌は、エネルギッシュな女房とすれ違って文化の世界に引きこもってゆく義政に、確かな人間味を与えたものでした。
一方、若き日の十三代目は無邪気にこんなことを語って、あくまで美しい。
「僕、じっとしているのは耐えられなくて。十分もたないんです。目的があったほうが、突き進める感じがあっていいですね。そういう意味で、いつも動いていないとつらい。だからなのかな、表面的には熱しやすく冷めやすい。友達もそういうやつだっていいます。やっぱりそうなのかな(笑)」(市川新之助・談 ドラマガイド)
「花の乱」からおよそ二十年、振り返ればずいぶん昔のこの大河ドラマが、團十郎という人たちについて実に多くのことを考えさせ、味わわせてくれるドラマであったことに気がつきます。
平安建都1200年の京都のドラマで江戸歌舞伎を代表する父子が光っている。
十三代目團十郎襲名、これを機に「花の乱」のDVDを見直してみようかと思う今日この頃です。
この記事を書いた人
入江 澪