「はん」と「ぼん」、ニュアンスの感じ方が少し難しい京ことば
時折、かつて西陣に住んでいた頃のことを思い出すことがあります。
今回取り上げたのは、当時のことばについて思いついた「はん」と「ぼん」なのですが、なんかまた不可解とお感じになったのではと感じています。
これはお相手を呼ぶことばで、テレビドラマなど昔の大阪の商家などでよく聞くことばです。京ことばというより、本来は大阪ことば・大阪弁といった方がふさわしいかもしれません。
(広告)「はん」は「さん」
30歳ぐらいまで西陣の町家長屋で暮らしていましたが、「はん」がつねひごろのお相手への呼称で「さん」ではありませんでした。
つまり、田中さんではなく田中はんと呼んでいました。
ネットで少し調べてみるとコトバンクでは軽い敬意を表すと示されていますが、はん=さんで個人的には、敬意のような感情は込められていなかったと考えています。
「田中はんとこのご主人、朝早よう仕事行かはるなあ」
「田中はんとこのぼん、大きならはったなあ」
※「ぼん」は後ほどご紹介します。
このようにつねひごろの他愛もない会話で使われ、使っていました。
西陣で「はん」は残っているか?
現在は、どうなのでしょう?
詳しくはわかりませんが、西陣では、まだ残っているのでは感じられますが、いずれも50歳以上の年配の方やご高齢の方に限るのではないかと思います。
仮定ですが小学生が、「ほな、山田はん(君)図書館行こか?」といっていたら、周りいる人たちは恐らく大いにズッコケるでしょう。
「どうしたんや?」になるはずです。
おそらくですが、「はん」をつねひごろ使うとしたら祇園や上七軒などの花街だと推察できます。
日常会話でいわゆる「どすえ」のような京ことばを使うのは、舞妓はんや芸妓はんだろうと容易に想定できますが、いざまちなかではと考えるとかなり怪しいものがあります。
「ぼん」
もう一つの呼称、「ぼん」も今は昔でまちなかでは使わないと感じています。
「ぼん」は、お金持ちの息子やおぼっちゃんという意味とは異なり、子ども、それも男の子を指します。
また、名前がわからない際など、
「ぼん、いくつや?」といったりするなど呼称をぼかす場合にも使われていました。
「ぼんぼん」とはちがう
他に「ぼんぼん」といういい方もありますが、これはお金持ちの子という場合で、皮肉や僻みなど悪意までいかずとも、あまり好意的な呼び方ではありません。
本人に面と向かっていうのではなく、陰口を叩く場合に放蕩息子のことを「あほぼん」ということがあって、これは子どもよりも大人に対しての蔑視的な呼称といえます。
「ぼんちゃん」と「ぼうず」
遠い記憶を辿って、西陣にいたころ、おばあさんたちはやはり小さな子どもが可愛いと見えて、「ぼん」ではなく、「ぼんちゃん」といっていたことをふと思い出したりします。
また反対に、小生意気な子どもには「ぼん」ではなく「ぼうず」と呼ばれていました。
ちょっと小憎らしい子どもに対して、おやじが「こらっ、ぼうず」といっていたのも記憶に残っています。
「~ぼん」
「ぼん」についてもう少し加えると、名前の一部を取って「ぼん」を付け加えるということも耳にしました。
これも男の子に限るのですが、例えば和夫(かずお)であれば「かずぼん」というようなもので、何ら好・悪意のない素直な呼称としてありました。
西陣に限らず京都のまちなかには、マンションが至るところに建ち(最近本当にマンションとホテルの建設が特に目につきます)、人との関わりや町内というコミュニティとの関わりが希薄になる中、「はん」も「ぼん」も既にもう使わない過去のことばと変わりつつあるのかもしれません。
国際観光都市京都もとてもご立派なのですが、昔ながらの人情や風情が薄れ消えて行こうとしているのは残念であると感じながら、このまちの本来の姿ではないと確信しています。
(広告)