源氏物語のアニメ「源氏物語GENJI千年紀」はかなり「あしたのジョー」である

赤子を抱く平安貴族(光源氏。『源氏物語絵巻』より)

大河ドラマ「光る君へ」を機に、アニメ「源氏物語GENJI千年紀」を視聴してみた

2024年の大河ドラマは「光る君へ」

紫式部が主人公とあって『源氏物語』に関心の集まる一年になりそうです。

そんなわけでわたくし、以前から気になっていたアニメをついに視聴いたしました。

2009年1~3月、ノイタミナ枠で放映された「源氏物語GENJI千年紀」

ちなみにこの前年2008年は「源氏物語1000年」として『源氏~』にすこぶる脚光が当たっていた時期です。

『紫式部日記』寛弘5(1008)年11月1日条に『源氏物語』を思わせる記載があることから、2008年はその1000年記念として、数々の「源氏千年紀」イベントがありました。
記念切手は発売されるわ、11月1日には京都国際会館で天皇・皇后両陛下をお迎えして記念式典が挙行されるわという輝かしさ。

この時期、大和和紀先生の漫画『あさきゆめみし』を原作に企画されたアニメが、この「源氏物語GENJI千年紀」です。すごい。

いやホントすごいのは、これ誰が最初に思いついたか知りませんが、漫画界の金字塔とアニメ界の金字塔をくっつけて、日本文学界の金字塔たる『源氏物語』を祝わせようという壮大な計画。

大和和紀先生の漫画『あさきゆめみし』は、繊細で美麗な絵で『源氏物語』という一大長編を正面から描き切った、まさに少女漫画界の誇る傑作です。一方のアニメの監督は「あしたのジョー」で知られる出﨑統。泣く子も黙るアニメ界のカリスマです。

これが抜群に相性が悪かった。

カリスマ原作とカリスマ監督の方針が合わず、途中で大和先生が原作を引き上げる事態に至ったという、いわくつきの作品。

放映が2009年、年明けになったというのは、ゴタゴタのため2008年中に間に合わなかったんでしょう。

1話目冒頭、全裸の光源氏と美女がすっくと立って向かい合っている画面に、のっけから大和先生とは異なるフレーバーが漂います。

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『源氏物語』のあらすじをご説明

王朝絵巻風の貴族の逢瀬と御所車と花のイラスト

ここで皆さんご存じなのを承知で、ちょっと『源氏物語』のストーリーを解説します。

光源氏は亡き母・桐壺更衣にそっくりと言われる継母・藤壺中宮に恋をし、強引に契りをむすんで子を産ませてしまいます。

他にも、藤壺そっくりな少女・若紫を引き取って自分好みの女に育てたり、六条御息所と契って、結果、妻・葵の上がとり殺されたり、兄の妃となる朧月夜と契って弘徽殿の女御を激怒させたり、とあばれまわります。

朧月夜の件で一時都を離れて須磨・明石に逼塞しますが、けっきょく、その土地で明石の上に生ませた娘が入内して皇太子を産み、光源氏は絶大な権勢を得ます。しかも藤壺の子・冷泉帝が光を自分の実父と知って太政天皇に准ずる位を贈るなど、あばれた結果うまく行ったというお話です。

光源氏は、六条院と呼ばれる邸に女たちを集めて栄耀栄華を誇りますが、最後、兄帝の娘で藤壺の遠縁にもあたる女三宮、ちょっと藤壺に似てるかもしれない少女を妻にして、長年の愛妻・紫の上の心を傷つけ、亀裂が埋まらないまま紫は死んでゆきます。

後年まで六条御息所の死霊がちょこちょこ登場したり、さまざまな女の人生が交錯する中、老いた源氏は亡くなり、宇治十帖と呼ばれる息子たちの代の話が始まります。
以下割愛。

光源氏は、当時の色男で帝の妃に手を出した在原業平がモデルだともいわれますが、こういう華麗な色魔・光源氏を描き抜いた紫式部という女の薄暗さも、まことに興味深いものがあります。

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アニメ「源氏物語GENJI千年紀」はレビューがすこぶる香ばしい

ともあれ、そんな『源氏物語』をアニメ化した「源氏物語GENJI千年紀」は、アニメ界のレジェンド出﨑監督最後の作品。しかも作画監督は出﨑の長年の黄金コンビ、杉野昭夫。アニメファンならずとも胸躍るビッグネームです。

この作品のレビューがすこぶる香ばしい。

「原作引き上げられてぐだぐだやんけ」「なめとんのか」「いや勉強にはこれで十分」「絵はきれいだよね」云々。

特に複数から上がってたのはラストへの違和感。ここで終わるの?ラストが中途半端なんじゃない?と。

アニメはちょうど、朧月夜の件で光が須磨に退去するところで終了し、確かに物語としては54帖の内の12帖目、まだ序盤です。 

出﨑監督がこの須磨までの『源氏物語』に見たものは何なのか。

大和先生に衝撃を与え、原作を引き上げさせたアニメ界のカリスマの方針とは一体どんなものだったのか。

不肖わたくし、異論を承知で言わせてください。

かなり、「あしたのジョー」である。 

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「源氏物語GENJI千年紀」は出﨑監督の剛腕が止まらない!!

アニメ第1話、ダイナマイトボディの美女との一戦後、次の逢瀬をせがむ美女に優しく、また来ますと言う光源氏。

帰り道、彼女にプレゼントを贈るよう従者の惟光に命じ、光はこう呟きます。

「明日のことは誰も知るよしもない。次はまたいつ訪ねることになるかわかりませんから」

この風来坊宣言をスタートに、光源氏の孤独な少年時代、継母・藤壺との出会いが描かれます。春を待つ藤壺のため梅の花をとろうとして極寒の池にぼちゃんと落ちる光少年。

少年の一途な思いに心動かされながら、彼を遠ざけるしかない藤壺。 

藤壺への思いを秘めて、孤独な光源氏は、数々の女との逢瀬を真摯に重ねてゆくのでした。

源氏物語 輿の中 逢瀬

たまげたのは最終回、いきなり源平の合戦みたいなシーンが始まって、白馬にまたがった光源氏が降り注ぐ矢の中、激闘しています。落ち武者となった光源氏は尼姿の藤壺と会って叫びます。

「罪は罪、されど、愛は愛!」

「うつせを去ったその人を、もしも再びこの腕に、抱いて思いが叶うなら、地獄もよし!修羅もよし!」

「うつせを去ったその人」とは出家した藤壺のことですね。

数々の光源氏の女遍歴は、つまりは愛の罪。

極限の力石徹戦みたいな藤壺との愛を核にして、リングの上で命を燃やす修羅の男、戦う男、光源氏。

今までの女遍歴を最終回ですべて戦闘に流し込む出﨑監督、お見事です。

ちなみにこの回、光源氏は、謀反人の首級を狙う賊の襲撃に応戦するなど、めっちゃ戦闘がちです。ジョーや!ジョーなんや!刀をふりまわす光源氏の姿に、出﨑監督の剛腕が止まらない!!

すさんだ光は「お兄様を待っている」と言う若紫にしばしの休息と明日への光を見出し、須磨~明石へ旅立ってゆきます。まあこのあと明石へ行ったら権力の方向へ向かうんですから、ここで終わりでいいっすよ。 

かなり、あしたのジョーである。 

異論はすべてお受けします。

この記事を書いた人
入江 澪

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