【幕末】料理で新撰組の近藤勇さんをふわふわさせたい京都幕末チャンネル

近藤さんの好物、たまごふわふわ

ごきげんよう、京都幕末チャンネルです。

幕末もいよいよ押し詰まってまいりました今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。本日は新選組局長、近藤勇さんにお越しいただきました。暮れなずむ幕末の光と影の中、ご苦労続きの局長に日頃の愚痴なども語っていただき、是非ともお疲れを癒していただきたいと考えております。

近藤勇

近藤さん、お忙しい中有難うございます。最近お勤めのほうはいかがですか?・・・そんなことここで喋れるか?ああっ、噂通りの剛直なお方。失礼しました。きょうは何もお気遣いなくおくつろぎください。

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ご好物はたまごふわふわだそうですね。駿州袋井の名物で、「東海道中膝栗毛」で弥次さん喜多さんも食べたとか、家光公が二条城で後水尾天皇に御馳走したとか言われる例のあれですね。

泡立てた白身に黄身を混ぜたものを、煮立てた出し汁の上にそっと流し込んで蒸らす。少し経って蓋を開けると薄黄色の卵がふんわりふわふわ盛り上がって、気分も高揚します。あ、いかついお顔がほぐれてきましたね。良い感じです。 

たまごふわふわ

近藤さん、天然理心流四代目宗家、豪胆で武勇にすぐれた天下の傑物、不逞浪士を斬り捨てて京都の治安維持をになう新選組のトップのお方。

変なことを申し上げるようですが、わたくしは常々この京都へおいでになった皆さまが京の味をどのように考えていらっしゃるか少々気にかかっておりました。

もちろん京の料理はどこにも負けないと自負しておりますが、やはり得手不得手はございます。何よりそれぞれのご出身で好みは当然ある。味噌汁の味噌が違う、すましの出汁も違う、漬物も違う。まあ近清の漬物は絶品ですけども、たまにはかかあの古漬けが食いてえ、とかね。食の違いは故郷との遠さを実感させたことでしょう。

京では蕎麦が食べたくなったらうどん屋へ

麺類にご苦労なさいませんでしたか?

幕末の京・大坂・江戸を比較した喜多川守貞「守貞謾考」。あの書の巻五「饂飩蕎麦屋(うどんそばや)」の項にはこうあります。

「京坂は饂飩(うどん)を好む人多く、また売る店もこれを専らとし、饂飩屋といふなり。しかも温どん屋にて、蕎麦も兼ね売るなり。江戸は蕎麦を好む人多く、商人も専らとし、饂飩は兼ねて沽(う)るなり。故に蕎麦屋と云ふ」

良いですか?蕎麦を召し上がりたかったら蕎麦屋を探してはいけません。うどん屋を探すのです。われわれに蕎麦屋という概念はないのです。

幕末京都で東国の蕎麦を恋しく思われてもご無体というものですが、饂飩もまた近藤さんや土方さんが地元の多摩で召し上がっていたうどんとは汁も硬さも異なるでしょう。

天下のため命を捧げようと上洛なさった方々に食事など些細なことかもしれません。ただ慣れ親しんだ味と別れ、血で血を洗う緊張した毎日を送るのは、さぞかし大変だろうと思うのです。

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京ではまだまだ旨いものがあった

きょうはご苦労続きの近藤さん、ふわふわをお好きな近藤さんに、心ゆくまでふわふわしていただきたい。これがわたくしの願いでございます。

天明2年刊「豆腐百珍」から一品ご用意しました。

「薯蕷(いも)かけ豆腐」

やまのいもをおろし、よくすりおき、かつほの出し汁、醤油少ししほからめにし、くらくらと沸たせ、かねしゃくしにて、すりいもをすくひ入れ、ふうはりと、ふくれあがるところを、よそふ也」

どうです、ふわふわですよ。

いや山芋はとろろが一番?・・・ああ、確かとろろ飯がお好きで、いつだったか19杯召し上がったそうですね。

ではこれはどうでしょう。東国では絶対食べられない逸品です。

「一 すり身を卵にてゆるめ、饅頭(まんじゅう)の大(おおき)サにして、蒸て、葛あんかけ、山葵(わさび)を加ふ。是をジャガタラはむ(はも)と云ふ…」( 寛政元年刊「海鰻百珍」)

やさしい葛のとろとろにハモ肉のすり身を卵でのばしたふわふわがくるまれているのです。素敵でしょう。ワサビは無論お好みで。

そんなことよりたまごふわふわを出せ?

近藤勇の銅像

失礼しました。近藤さんは好きなものに何より忠義なお方でした。ああ、お顔がまたいかつくなっていらっしゃる。

ただいま卵をかきまぜてまいります。少々お待ちあれ。

それでは皆さんいったんコマーシャルのお時間です。引き続き幕末チャンネルをお楽しみください。

この記事を書いた人
入江 澪